テレビウォッチャー

2014年6月30日月曜日

第12回:視聴率に対する「批判」 その3

三浦甲子二という男
  前回、NET(現テレビ朝日)調査局長・三浦甲子二(敬称略)について触れ、その逸話は数え切れないと書いた。なかでも“ビデオとの契約は止めた。商売に与えた損害賠償金を支払え”という発言には、ほとほと閉口した。
 しかし彼には憎めないところがあって、何故か彼の暴言をついつい許してしまうのだ。彼は朝日新聞の政治部時代に河野一郎と仲がよく、池田勇人の「番記者」として豪腕ぶりを発揮していた男であった。そのためかプライドが人一倍高く、“何で俺がNETみたいなチンケな局の調査局長をやらされにゃならんのか!”と、いつもご機嫌斜めであった。
 そんな彼が“視聴率が低いのは何故か?”と役員会で視聴率アップの手立てを連日求められては、彼の怒りが爆発しないはずはなく、その矛先がビデオリサーチに向けられたのも無理はなかったのである。
 そんな彼に、絶好な事案が舞い込んできたのである。

モスクワ五輪独占放送権の取得
  ご存知の方の多かろうが、1977年、ソ連(当時)のアフガニスタン侵攻に反対して西側圏は「モスクワ五輪」をボイコット。NHKは五輪放送を取りやめたのであった。
 三浦はこれをNETの存在を世に知らしめる絶好のチャンスと捉え、それならとばかり「独占放送権」の取得に奔走。成功にこぎ着けたのであった。
 モスクワに向かうための得意満面な三浦の姿が羽田空港の特別貴賓室にあった。「お見送り」を任された筆者の目に飛び込んできたのは、三浦の出立をお見送りするためにズラリ並んだ「きれいどころ」の光景であった。“局長。気をつけて、いってらっしゃい”という筆者の声などは“甲子ちゃ~ん”という嬌声(?)にかき消され、彼は揚々と機中の人となったのである。

形勢逆転
  そんな三浦が帰路、トランジットのために立ち寄ったオーストリアで倒れたというのである。心労による軽い心臓発作とのことであった。無事に帰国はしたものの、しばらくは自宅静養の身となったのである。
 今度は当方に挽回のチャンスが巡ってきた。早速、銀座・千疋屋で買い求めた最高級のメロンを携えて、調布のご自宅に見舞いに出かけた。“ごめん下さい。お見舞いに伺いました”と、奥から“なにぃ~。ビデオが見舞いにぃ~!! 追い返せ!!!” 例のだみ声である。応対に出てこられた夫人は困ったように、“ねっ!。あれですの!!”と、片目をつむって見せたのである。すかさず“局長~っ。お見舞いは、局長にじゃなくて、局長のワガママに手を焼かれている奥様への差し入れなんですっ!”そういって、調布のご自宅を後にしたのである。
 しばらくして、局長が出社された。“全快おめでとうございます”と挨拶に出向くと、“わざわざ見舞いを届けてくれて、すまんかったな”と、こうである。“君も塾(慶應)だってな? これからも宜しくな”
 その後、「契約の破棄と賠償金支払い」騒動が消滅したのは、いうまでもない。
 次回は、「批判」の4回目として、「視聴率のポルノ批判」についてお届けしよう。

2014年6月13日金曜日

第11回:視聴率に対する「批判」 その2

高すぎないか? 契約料金 
  前回に引き続き、機械調査が導入された当時の「批判」について、お話ししよう。
  まずは手元にある資料から、当時の視聴率調査のお値段についてお話ししよう。表を見て戴きたい。これは当時の主要な視聴率調査の実施機関とその調査地区、調査方法・契約料金などをまとめたものである。



   こうした料金に対してニールセン社の利用料金は、関東地区が月額500万円、関西地区が400万円という高額なものであった。そのため、“こんな高額な契約料金なんて、見たことも、聞いたこともない”という「料金」についての不満(=批判)であった。次いで視聴率調査をスタートしたビデオリサーチ社の契約料金もニールセン社と似たり寄ったりの料金であった。ただニールセンと違うのは、料金立てをAタイム30分料金の4.3週分をもって、月額契約料金にすると、その「算出根拠」を示したことであった。

得意先からの不満(=批判)
 当時、ビデオリサーチ社に寄せられた批判の一つは、前回にもご紹介したニールセン社とビデオリサーチ社が算出する視聴率の「違い」で、“どっちの数字が正しいのか?”という「正確性」についての批判であった。これについては「サンプルの違い」を説明することで、一応の決着を見た。しかし「契約料金」についての批判は、論拠ともいうべき「原価」が提示されなかったため、納得してもらうのに難渋した。どんなことを言われたのか? 具体的な例として、まずTBS調査部長・久保田了平(敬称略)の言い分をお話ししよう。温厚なお人柄で、ゆったりと話をされる紳士だが、こと契約料金に関しては、こうである。“僕らは視聴率なんて、なくっても「商売」ができるのに、何でそんな高額な契約料金を払わにゃならんのかね~?”である。しかし久保田氏の場合は、まだいい方だ。あれこれ言われたとしても、最終的には提示した「料金」に応じていただけたからである。

 困ったのはNET(現テレビ朝日)調査局長・三浦甲子二(敬称略)であった。当時のNETは教育局としての放送免許であったため、学校放送向け番組を放送せねばならず、畢竟、視聴率は他局に比べ、相当なハンデを負っていたからである。三浦氏曰く。“自分の局に不利になるような低い視聴率をそんな高い金を出してまで買わにゃならんのじゃ!?営業妨害じゃ。さっさと賠償金を払え!!”と、こうである。また彼にはいろんな逸話もある。それは次回に、お話しするとしよう。(つづく)