テレビウォッチャー

2015年3月3日火曜日

第21回:視聴「質」調査の導入をめぐって⑤

ピープルメータ調査の「検証」
 ニールセンが日本民間放送連盟(民放連)のピープルメータ調査導入反対を押し切って「独断実施」したのに対し、ビデオリサーチがとった300世帯による同社ピープルメータ調査の実験結果のデータ提供(19953月)は、民放連、主協(日本広告主協会=現・日本アドバタイザーズ協会)、業協(日本広告業協会)に、極めて好意的に受け止められた。
 三業態は、早速、学者諸氏に対して、このデータの「検証」を委託した。学者諸氏は、ビデオリサーチ社のピープルメータ実験調査について、調査サンプル世帯の応諾率(=代表性)、調査対象サンプル各人の視聴入力(=ボタン操作)の正確性、測定手法の妥当性の3点から検証しようとしたところ、驚いたことにこの「検証」には“是非わが社の調査も加えて欲しい”と、ニールセンから、この実験への参加申し入れがあり、次の5項目について「検証」することになった。

曖昧な検証結果
 半年かけて①サンプリングの状況、②視聴実態の記録に関する事項、③サンプルの管理、④センサーと警報の効果、⑤データ管理と集計システムについて行われた「検証」結果は、19966月、「機械式視聴率調査検証報告書」として、まとめられた。
 しかしながら、学者諸氏のこの調査に下した「見解」は、いかようにも取れる曖昧なものであった。すなわち“両社の調査には、いくつかの問題点はあるものの、適切な改善がなされれば、個人視聴率を測定する方法としては有効”というものだったからである。
 この見解に対し、「いくつかの問題点がある」という前段の指摘を重く見た民放連は、“導入は時期尚早”と導入反対を強く唱え、一方の主協は後段の「測定方法としては有効」との見解をもって“お墨付きが得られた”と、早期の導入を激しく迫ったのである。
 学者諸氏による「検証」が、玉虫色の見解として示されたために、かえって事態は混乱。導入論議は出口の見えない「袋小路」に陥ってしまったのである。

事態を突き動かした業協
 こうした「膠着状態」にあったピープルメータ調査を導入に向かって突き動かしたのは、わが国の二大広告代理店の電通と博報堂であった。両社のテレビ担当役員は“もはや機械式個人視聴率の必要性を強く求める外資系スポンサーの声を拒み続けることは出来ない。一刻も早くピープルメータ調査の導入を!”と在京民放5社を説得して回ったのである。
 民放連は「テレビにとって視聴率とは」と題したリーフレットを作成して、“視聴率はあくまでも世帯視聴率が中心であり、個人視聴率をメディアの取引データとしては利用しない”という個人視聴率問題特別委員会見解を提示して導入に反対したものの、早期導入に傾いた流れを止めることは出来ず、今後とも「視聴率に関する懇談会」のもと三業態として、引き続き継続審議する旨を確認した上で、導入を受け入れたのである(1997/3)

 ピープルメータ調査の導入は上記のように決して円満な「業界合意」ではなかったため、折に触れてぎくしゃくはあったが、時の推移とともに、継続審議も有名無実の反古となり、なし崩し的にピープルメータ調査は視聴率のスタンダードとなっていったのである。