わが国のデジタル化
1997年、デジタル放送に向けた審議が開始され、2000年12月1日にはBSのデジタル放送がスタート。2003年12月には東・阪・名の三大都市圏において地上デジタル放送が、2006年12月には、全ての都道府県庁所在地での地上デジタル放送の受信が可能となり、まさに「デジタル化時代」が現実のものとなったのである。
デジタル時代の到来は、テレビ視聴率調査にどのような影響を及ぼしたのだろうか?
選択肢の増加
デジタル化での大きな変化は「多メディア化」と「多チャンネル化」である。今までのテレビ放送は関東地区でいえば、NHKの総合と教育、日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京などアナログの7局のほかに、MXテレビ、テレビ神奈川、千葉テレビ、テレビ埼玉、群馬テレビ、栃木テレビなど独立U局とNHKのBS1と2それにBSハイビジョンを加えた計16局であった。それがデジタル化されることによって、一人の人が平均して見ることの出来るチャンネル数が、少なく見積もっても40~50チャンネルとなったのである。視聴者が見る番組の数が格段に増えたことで“送り手から受け手へ”の一方通行であったこれまでのテレビ局と視聴者との立場が逆転し、“受け手主導による番組選択時代が到来”したのである。
加えて録画・再生機器の発展により、人々のテレビ視聴はライブ視聴からタイムシフトによる視聴が日常化するようになってきたし、また人々の生活行動の変容により、自宅内のみの視聴から友人・知人宅や職場、公共施設など、自宅以外の場所での視聴機会も多く認められるようになった。
またデジタル技術の発展により、テレビ受像機のみによる視聴からパソコンやワンセグをはじめとする各種モバイル機器による視聴の可能性へと大きく転換していったのである。
新たな測定機の開発
申すまでもなくデジタル放送は従来のアナログ放送の周波数とは帯域が大きく異なる。このため、従来の視聴率調査測定機によるテレビ視聴を測定することは叶わなくなった。新たにデジタル対応測定機の開発が求められたのである。その対応は先のピープルメータ調査の導入以上に、技術開発の面で苦戦が強いられたのである。
ではデジタル対応の視聴率測定機はどのように改善されなければならないのだろうか?
当面の対応としてとられたのが、衛星デジタル・プラットフォーム内の個々のチャンネルの視聴を識別することであった。
このデジタル対応の試作機はビデオリサーチ社から「データビジョン'98」という自社展示会において、いち早く発表された。しかしこのときの試作機は、当面2000年12月の「BSデジタル化」に対応したものであって、2003年の地上デジタル放送を睨んだ本格的な測定機器と呼べるものではなかったのである。
進む視聴のフラグメント化
他方、「多メディア化」、「多チャンネル化」によるメディア環境の大変化は、視聴者にとって、見ることの出来る番組数が多くなる分、個々の番組の視聴は分散され、「視聴のフラグメント化」に拍車がかかることになる。デジタル化時代の到来によって、高視聴率番組が減少するという奇妙な「現象」が生じ始めたのである。(つづく)